ゴー宣DOJO

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泉美木蘭
2017.2.15 07:18

見えない貧困と人間性の劣化

生放送でも話題になると思うけれど、ブログでも書いておこうと思う。

録画しておいたNHKスペシャル『見えない貧困』をいま見た。
現代の日本社会に存在する貧困家庭の姿をていねいに取材しており、
今年8月に起きた「貧困女子高生」へのネット民たちによる心無い
バッシングに対して「この実態を見てから言え!」と、強い説得力と
共に現実を突きつける姿勢があった。

番組では「相対的貧困」をまず解説し、「世帯月収20万円」という、
一見して貧困とは思われない数字を紹介。
「え、20万円あれば大丈夫なのでは?」という、ごくごく素直な疑問
を言葉にしてから、その実態を報じていた。

現代の貧困家庭にはエアコンもテレビも電子レンジも揃っている。
物が有り余って、「家具家電を捨てるのにも金がかかる」という愚痴
まで起きているような状態だから、タダでも譲りたい・貰ってほしい
と考える人が大勢いるからだ。
親の買った一軒家に住みながらも、老いた親に仕送りしながら、
日々の食費は全員で1000円以下と工面しなければならない貧困の形
だってある。
貯蓄ができず、常にカツカツで回していく。
そのなかで、普通の家族ができていることができず、働く親の帰りを
長時間待っている孤立した子供たちがいる。
そして当然のように、学費、進路への壁が立ちふさがる。
本人がいくら勉強したくて頑張っても、将来が押しつぶされていく。

洗濯物を干したり、アイロンをかけたりしながら昼夜働く母親の帰り
を待つ小学生の子供たち。
平日は4時間、休日は8時間働いて家計を助けながら学校に通い、
今後の進路について悩む女子高生。
母親が必死で働く姿を見て、クラブ活動をあきらめた男子高校生。
受験をひかえ、教育ローンを勧められ、涙を流す女子高生。

あまりに親思いで、そして、生々しい言葉の数々に、胸のつまる思い
だった。
徹底的に厳しい現実を突き付けられて育っているから、
言葉も感性も完全に大人びており、これからの将来に夢を見るような
希望や明るさ、子供らしくフワッとした様子が全くない。
本来ハツラツとしていられる年ごろなのに、重苦しいあきらめと、
疲労感、さみしさ、皮肉で覆われている。


子供の貧困を放置していると、それは教育や将来の仕事、収入へと
連鎖してゆき、最終的に40兆円超の経済的損失になるという。
やはり、日本で苦しんでいる子供たちを放置して、アメリカに51兆円
も軽々投資して悦に入っている政府は、頭がおかしいのではないか?

番組で取材を受けてくれていた女子高生がもっともまともなことを
言っていた。

「オリンピックだ、高齢化だっていうけれど、それを支えていく
高校生の私たちの苦しさに目を向けて欲しい」

しかし今回も、バイトしながら学校に通う女子高生を見て、
「交際費に2万円も使ってるの?」
「甘すぎる」
「借金がつらい? はあ?」
などと上から目線でバッシングするネット民たちが現れている。
よくそんなことツイッターなんかに書き込んで気分良くなってられるな。
どんな顔して文字入力してるんだ?
どこまで感性が、いや、人間性が劣化しているのか。

見えない貧困、相対的貧困は、くり返し報じていくべきだと思う。
NHKには頑張ってほしいし、機会あるたびに私も取り上げ続けたい。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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